#4




カタ・・カタカタカタ・・・カタ・・・・・
モニターを見つめる太った男の黒ぶち眼鏡にモニターの光がおぼろげに映っている。
都内の一戸建て住宅、男はひきこもりらしい。
キーボードを打ち続けるむさ苦しい男の毛むくじゃらの手首
男「・・・ハァ・・・ハァ・・・・・ハァハァ・・・・ちくしょゥ・・・ボォゲ・・・・・ハァハァ・・・・」
見つめる男、モニターから共振音。男が気づく気配はない。
モニターにモンスターの姿が映るが、男はモニターの文字群を見るのに必死だった。
モニターが光り、モンスターの腕が襲い掛かる。
男「げヒぃいいい!」
ボキボリムシャムサャ・・・・

階段を上り、部屋のドアの外に男同様太目の眼鏡主婦が上がってくる。
主婦 「ふとおちゃん!お夕食ですよ・・・」
心持主婦の声はおどおどしているが、返事が無い。意を決してドアを開ける主婦
主婦 「ひ、ひえええええーーーーーーーっ!」
食べ物を差し入れようと入ってきた主婦の目の前、パソコンキーボードに残されている毛むくじゃらの手首。



 朝もやの中、雑木林を駆けるVi:。
 Vi:[ハァ・・・ハァ・・・・・・・・]
 林の中に、様々な鳥の声がする。
 すさまじいスピードで森林を駆け抜けるVi:。
 森林内、山中の斜面を駆け上がるVi:。
 息をつめて一気に走りきる。

 小動物が逃げる事もできないスピード。直線では無く、ジグザグに駆け抜けていく。
 樹木の上ハイジャンプするVi:。一瞬枝の上に小鳥の巣と卵があるのを見る。
 もう一度宙返りをし、小鳥の巣をかわすVi:。
 それはまるでフィールドアスレチックかオリエンテーリングをしているようだった。
 緑のVi:が駆けていった後には、死んだ動物も、折れた枝もひとつも無かった。
 聞こえるのはVi:の足音と葉擦れの音、風の音だけである。

 冬ではあるが、春も近づいてきており、美しい樹木が広がっているが、
 木々からは聞こえるざわめきは丸で悲鳴のようだった。
 その周囲からは「死」の気配と、臭気が漂っていた・・・。
 ライダーVi:の嗅覚が鋭敏だからでは無い・・・・・

 狭山丘陵・・・
 東京都周辺で唯一23区近郊に隣接している森林地、丘陵地帯である。
 位置的には東京都と埼玉県の県境に属し
 クヌギ・ブナなども群生し、野生動物、鳥類の宝庫でもある。
 某アニメ映画の舞台になった事でも知られた森林、と言えばすぐ想像が付くかもしれない。

 キチンXにより変質した木嶋の肉体は常人より大量の酸素を必要とし、また、定期的なVi:への変身と活動を行わなければ、人間としての生命活動が阻害される。木嶋が人間である為にはVi:に定期的に変身し、その身体能力を使用するしか無いのである。
 木嶋の変身は生理現象と同じものと言っていい。コントロールするためにはトレーニングを必要とする。

 走り続けるVi:の目の前に枯れた木が斜めに折れかかっていた。
 ライダー 「うおおおーーーーーーーー!!」
 枯れた木の幹を手刀で叩き切るライダーVi:。一瞬で幹が両断され木の断面があらわになる。

 Vi:が到達したゴール地点、ホーネットがゴールを伝えるBEEP音を鳴らす。
 医療カバンの外に出されたストップウォッチを押すVI:。
 タイムはまずまずといった所だった。
 Vi:、顔をあげる。
 様変わりした丘陵の光景を凝視するVi:とホーネット。 
 そこからは目の前の巨大な「廃棄物処理施設」がはっきりと見えた。


 スズメバチは樹木の根元深く、地下に巣を作る。
 この丘陵地帯の地下は、タンクホーネットの「巣」になっていたのだ。
 処理場はそこからホーネットにとってもVi:にとっても目と鼻の先に建てられていた。
 ライダーたちに安らぎを与えてくれたこの場所に、デスヤプーとの戦闘時には無かった処理場が建てられ、
 汚臭、異臭、煙、粉塵、それらがライダーたちの感覚を傷つける。

    ホーネットは自らの縄張りが汚されても、人間を攻撃しなかったのだ。
 それはとりもなおさず、Vi:の命令をホーネットが守っていた事を意味する。


 自らは醜いのに、美しいものを求めながら、醜いものを美しさの中に捨てる・・・・


 「すまない、ホーネット・・・・・人間は、愚かなんだよな・・・・」
 巣すら汚されたホーネットを、また人間の為戦わせる現実そのものを、ライダーはなじりたい気分だった。
 人間の作り出したゴミの堆積、文明の末路、それを見ている自らもまた
 人類から見れば一種の廃棄物のようだなと思った。
 処理場の運転開始のサイレンが鳴る。
 沈黙しながらライダーとホーネットは、遠方で稼動を始める巨大ゴミ処理施設を見つめている。


タイトル


 変身を解いて、切株に座ってペットボトルのドリンクを飲んでいた木嶋の手元の携帯が鳴る。
 留守番サービスからだった。ライダーがホーネットと二人でいた間に、要から連絡が入っていたらしい。
 伝言を聞く木嶋
 要  「敷山氏から連絡だ。スカッドライナーを、現在のお前にセッティングを合わせたいらしい。通達って事で、急いでくれ。」
 木嶋「ホーネット・・・いくぞ。」
 タンクホーネットはまだボーッとしてゴミ処理場を見ている。
 ホーネットの知能は人間と同等であり、少し彼にも考え事があるように見えた。

 タンクホーネットで山道を降りて行くホーネットと木嶋。木々が背後に流れ去って行く。
 「狭山フィールドアスレチック場」の看板の脇を疾走する。
 小学校の帽子と、リュックを背負ったどこかの子供たちの遠足の列とすれ違う。
 遠足にも見えるが、今はまだ冬だ。ゴミ廃棄場等の社会科見学なのかもしれない。

 子供たち 「わーーー!カッコいいーーーー!」
 子供たち 「あのバイクすっげーーーー!!」

 走りすぎるホーネットの上の木嶋。少し楽しい。
 木嶋 「あははー、人気あるなー、おまえ・・・」
 ホーネットは目を真っ赤に燃やし、Beep音を鳴らした。
 結構彼は、シャイなのであった。



 霞ヶ関、警視庁。
 本庁ビルの壁面修理はようやく終わった感じで、
 窓拭き用の屋外エレベーターに載った作業員により、壁面から塗装マスク用のシートが外されて行く。
 治安維持指揮室に戻ってくる要。部屋には1課の刑事が待っていた。
 刑事「要警視正、どうでした、遺族たちは」
 疲れ果てたという感じで座る要。だが、目は冷静で、強い意思を感じさせる。落ち着き払った声の要。
 要 「当然半狂乱だな。だだっ広い体育館みたいな所に遺体の破片を並べられて、これがあなたの親族です、と言われた所で誰が納得する?」
 刑事 「・・・・・」
 要  「しないよ。俺でもしない。」
 刑事はぞくっとした。
 繁華街事件の遺族が訪れる前、遺体の配置につき合わされてもいたが、今感じた寒気は、あの光景では無く、要警視正に対してである。

 事実も遺体をも遺族には隠す、それが基本的には警察上層の主張であった。
 要はそれに反して結局「全遺族に対し遺体の一部を公開する」という手段に出たのだ。
 遺体を見せたのは要当人なのである。
 親族にしてみれば、あんなむごたらしい遺体見たいわけがない。心中穏やかでいられる筈がない。それでも要はその選択を実行に移した。

 要  「被害者の死亡告知についてだが、結局各ビル屋上の遺体自体が手首や足首など、指紋などで人物特定しやすい部位を残しているにしろ、家族にしてみれば全身が出てこない限り納得いく筈もない。手首を失っているとしても、生きていて欲しい。当然の感情だろう。死亡診断を出す医者すら現場にいないんだからな。引き取り手のつかない遺体まで出そうなのには閉口したが、警察に犯人についての情報を一切公開できないと言われちゃ当然だろう・・・遺族には結局被害者の生死は不明だ、と半分は認めさせられざるを得なかった感じだ。彼らにしてみれば北朝鮮拉致被害者の家族と同じ心境の筈だ。」
 刑事 「木嶋医師に、死亡所見を書いてもらうというわけには・・・いっそ木嶋氏に検死官になってもらうわけには・・・」
 要、無言で刑事の目を見据える。
 刑事 「無理ですか、やはり・・・」

 現実を伝えた上で、口止めをできるかというのが問題だったわけだが、結局要警視正は遺族に遺体の一部を見せ、被害者の生死を不明扱いにする事で、犯人像すら伝えず、捜査上機密という事で遺族に口止めをした・・・わけである。
 酷いと言えばこんな酷い話は無い。

 要  「今回の犯人の非情さは筆舌に尽くしがたい・・・遺族にはそう言うしか無い、間が抜けた反応だと罵倒されようが。それに捜査上機密という名目があれば少しは時間が稼げる。今怪物の件がばれて民衆がパニックに陥るか、後でパニックに陥るか。なら後でパニックになってくれた方が、怪物やカードの研究も進む分、まだ対処法も見つかってくれるかもしれない。マスコミ報道による連鎖パニックを防ぐには、今は遺族には団結して全面的に口を閉じてもらうしかない」
 要自身が歯噛みするしかないわけだが・・・
 刑事 「・・・そういえば、ホーネット、どうしたんです?地下駐車場にはいないようでしたが」
 要  「木嶋とあの重戦車は改造生体だからな。ホーネットの発達した嗅覚には死体の臭いは良くないんだそうだ。暴れ出したら手がつけられないって事で、木嶋がホーネットの巣にまで連れていった。今ごろはオゾン浴でもしてんじゃないのか?」
 東京に戻ってきた木嶋が変わり果てたホーネットの巣(狭山丘陵)周辺に怒りを感じている事など、要に解る筈もない。


 城空大学正門前に木嶋のバイクが停まっている。
 どこかでホーネットと別れ、通常バイクに乗り換えてから来たようだ。
 時間帯が講義中という事もあり、正門前の人影はまばらで特に何の騒ぎにもならない。

 木嶋はかつてのエネルギー研究室を訪れていた。
 室内を歩く敷山一路と木嶋。学生の研究員たちが、研究に勤しんでいる。
 スカッドライナーの再調整は思いの他難航していたようだ。
 敷山 「要氏が勤めてる自動車会社にかけあってくれた。有給中にはなんとかなるだろ・・・(笑)」
 笑いながらも敷山の笑顔はひきつっていた。これで敷山の今年の有給は1/2消費だ。

 ゼミの学生 「せんぱーい、こんなもんでいいんですかー?」
 敷山 「こんなもんで、って事はないゾー、最チェ−ック」
 木嶋 「自分は結構アバウトな癖にねぇ・・・」
 敷山 「おい。聞きづてならないな(笑)。俺の場合は単に人間性とゆとりを持ってのんびり整備をしてるってだけだよ(笑)正確性とは関係ないぞ。」
 検査機器と配線のつなげられたスカッドライナーを見つめる木嶋、敷山。
 敷山 「木嶋の身体に対応した姿勢制御装置は長い事はずしてあったし、まだ本式稼動にまで1週間はかかるかな?その間は非常医療活動は、ちょっと我慢してくれ」
 木嶋 「そうならない事を希望したいよ・・・」
 敷山 「で、あれ、みたか?どう思う?」
 視線を移す木嶋。
 木嶋のスカッドライナーの脇に置いてあるのは、そっくりだがより洗練された雰囲気の別のバイク数台・・・
 それらもスカッドライナーと同じ、水素バイクらしかった。
 木嶋 「・・・・・・」
 敷山 「あれ、スゴイんだぜ!!普通の人間乗せたままで、こないだアウトバーンで時速220kmたたき出したんだから!」
 学生1 「せんパーい、それやったの俺らっすよー(笑)」
 学生2 「あの低予算でドイツ行ってきたのを・・・誉めもしないで、ナア?」
 笑う後輩たち。
 敷山 「あー・・・ゲホンゲホン・・・。それはそうだが、チミたち先輩を立てるっての知っとるかね?ん?」
 全員、笑い転げる。エネルギー研究室の教授の物真似らしかった。

 敷山 「・・・ただ、新型には木嶋は乗れない。あれは純然たる「人間用」のバイクなんだ。スカッドライナーは変身したおまえの為に結局カムやらトリムやらチェーンやらブレーキシスから・・・熱バイパスまで無制限に全換装してしまったからライダーのパワーに耐えられるが・・・言って見りゃスカッドライナーは荒くれ馬で、こいつはいいとこのボンボン馬・・・おまえの力でターン切った日には一発でタイヤバーストするし?・・・でもさ。新型機は俺たち人間にとっては、夢なんだよなー。」
 学生1 「そんで新型機用のパーツをカスタム扱いで外装に取り付けてるわけですー・・・ヒーヒー。」
 笑う木嶋。
 木嶋は敷山のいいたい事はよく解った。疎外感を感じもしたが、
 新型バイクは、敷山の研究を継ぐゼミの若手の作り出した、「人間の為の夢」なのだ。

 敷山 「・・・・後継機は何台もあるけど、でもこのスカッドライナーも、卒業生の俺たちにとっては結局最初の大事な夢なんだよ」
 木嶋と敷山は、彼ら自身の愛機を再び熱く見つめる。
 敷山 「・・・・・・大事に使ってくれよ?」
 木嶋 「・・・・・・うん」

 新木場、埠頭に停車している乗用車に警官たちが群がっている。現場検証らしい。
 乗用車のドアからは血が溢れ出しており、警察官の開錠担当係が鍵のかかっていたドアを開ける。
 除きこむ刑事たちと警察官
 刑事A 「ひどいなこりゃあ・・・」
 刑事B 「はぁ」
 社内には液晶モニターのついたままのノートパソコンが残され、その上に会社員のものらしき手首が乗っていた。


 夕方、警視庁。治安維持指揮室に戻ってくる木嶋。中には要警視正と水崎室長、先の刑事。
 要  「どうだった。敷山氏、変わらずだったろう。」
 木嶋 「ええ。」
 要  「トレーニングはどうだった。いい空気だったか?」
 木嶋 「もちろんですよ(笑)」
 疲れている要にNoを言っても仕方がない。

 要  「で、今回の事件の情報がまとまりつつあるって事で、1課から回ってきた捜査資料だ・・・」
 木嶋 「例の事件から4週間が過ぎてですか?・・・」
 要の目が木嶋をじっと見つめる。
 要 「いや、あの直後からだよ。おまえに言い様が無かっただけだ。」
 二人の距離感は微妙である。
 木嶋と水崎の目の前に広げられて行くのは殺害事件の現場検証写真だった。
 要  「今回の事件が起こり出したのは山羊頭による繁華街事件が終わった直後かららしい。この3週間で約30人が被害にあっている。」
 水崎 「・・・通達に時間かかりすぎてませんか?」
 要  「警察はタテ社会だからな。上意下達がスムーズなように思えて、その逆、下から上ってのは伝わりづらいし、今回の事件も連続して発生していなけりゃ・・・・・・「俺たち」にお鉢は来なかった」
 木嶋、沈黙。
 木嶋にどうしようもない事は、警察にもどうしようもない。当然の事だ。責められる筈もない。
 また、要の台詞は彼の本庁における立場を完全に表していた。

 要  「で、仕切りなおして、今回の事件なんだが・・・犯行現場の共通点はどの現場も密室である事。どれも被害者はパソコンを使用中に襲われていると考えられ、キーボード上に手首を残すという残忍な手口。密室であるという条件さえ合っていれば、個人の家庭であろうと、会社の残業中であろうと、果ては停車中の乗用車内からの携帯モバイルノートパソコンからのアクセスであろうと関係なしだ。通常事件と考えるなら、密室殺人による『異常犯罪者の警察への挑戦』って事になるが、モンスターが犯人と考えるなら、真相は一気に解決する。」

 要  「つまり、パソコンのモニターもしくは液晶画面の鏡面から、人間を襲ってる・・・という事になるわけだ。」

 木嶋 「・・・・・・・」
 長テーブルの首都圏地図を見つめる要。
 要  「問題はモンスターの害者選択の基準だよ。よく解らないんだが1課の調べで、最初の10日の被害者ほぼ全員が同日に神田に外出していた事が判明。次の10日の被害者は新宿に同日外出。・・・初期は一人暮らしを襲っていたのが、最近は同居者がいても構わず殺害に及んでいる。事態はおぼろげにしか掴めていない為、いま少し把握には時間を要する。が、それら共通点の意味は全くの不明だ。」
 木嶋は要の発言の一部にひっかかるものを感じた。異常犯罪者の警察への挑戦。
 もしかしたら、これらの殺害行為はそれそのものなのではないのか?
 だが、モンスターそのものの行動パターンから考えて警察組織を理解しているとも、
 挑戦するような感性があるとも考えがたいような気もする。
 要  「共通点は全員ネットフリークばかり、職業もまちまち。敵さんが何を考えてるかは全く皆目見当つかないな。」
 水崎 「ていうか、無職の人間もいますよ。あと、被害者、男ばっかりですね。」
 確かに遺族から取った調書の中には無職者もいるが女性は一人も見当たらない。
 水崎 「つながり、本当にあるんですか?」


 要  「それでだ、ここ2,3日の三被害者の共通した外出先が、新宿から秋葉原に変わった。可能性の問題だが、何かしらの被害者の接点があるとすればこの街って事になる。モンスターが尾行なんてものをするのかは判らないが、とりあえずこの街を訪れた者から次の被害者が出ると考えるのが正解だろう。今日はもう遅いが、明日になったら木嶋は行ってモンスターの出現に備えてくれ。とりあえずモンスターを感知できるのは、今はデッキを持っているおまえとホーネットだけだ。」
 木嶋 「わかりました。」
 水崎 「じゃ、自分も行くって事で・・・いいですか?」
 要  「おう。」
 木嶋 「・・・・・・?」
 水崎 「いや、先日研究室の火災で焼けた計器だの、カメラだの・・・秋葉原のなじみの店から調達したものだったんですよ。」
 木嶋 「?」
 水崎 「分室長は一応経費も気にかけなきゃならないんで・・・特に今回は木嶋さんが持ち帰ってきた各カードのデータを読むのに、カードリーダーを作ろうと思ってるんですが、余剰にとっといたパーツは山羊のせいで焼けちゃったんですよ・・・・」
 要  「ま、そーいう事で。木嶋はケース持って、秋葉原に行けばモンスターの共振派をキャッチできるだろうから、警戒よろしく、備えてくれ。」
 木嶋 「・・・了解」
 そんな木嶋を部屋にいた1課の刑事はずっと見ていた。
 遺体群の配置につきあっていた木嶋の姿を思い出す。
 彼はひどく冷静だった。遺体を丁寧に並べたり、全体の構図に気を配ったり。だが
 ひどい事をする、とも、残酷だ、とも、許せないとも、数十人分の遺体を前に木嶋が感情らしきものを何一つ見せなかった事を思い出す。
 検死官等が感性を鈍化したり、コントロールできるのはよくある話だが、あれ程の被害者数なら少しは怯えたり怒りに震えたり、
 何かしらの反応があると思う。
 刑事は「この男に心などというものが果たしてあるのか?」と一瞬疑った。


 翌日。ウキウキしていると言った水崎の顔
 水崎 「それじゃぁ、行ってきマース!!」
 治安維持指揮室を出て行く木嶋と水崎。送り出す要、ドアを閉める。
 遠くでエレベーターの閉扉音、木嶋が指揮室のある階から消えたのを見計らう。聞こえるとやっかいだった。
 要  「さってと・・・」
 携帯電話を取り出す要。番号を押す。
 要 「・・・青山第一総合病院ですか?警視庁の要と申しますが・・・」



 秋葉原電気街口。
 秋葉原の駅を降りている木嶋。相変わらず白衣に医療カバン。
 水崎と並んで二人で、ぼーけーーっとしているように見える。
 木嶋 (この街は耳にうるさいな・・・)
 ものすごい喧騒音と雑踏。
 水崎 「まっさか、二人で秋葉に来る事になるなんて思わなかったなぁ・・・」
 木嶋 「迷惑・・・かな」
 水崎 「いや、んな事はナイんですけど・・・・・・白衣なんとかなりませんか・・・;」
 木嶋 「・・・;」
 木嶋は往診医なので、白衣も商売道具なのだが、往診医を知らない都会育ちの水崎には理解できないようだった。
 歩き出す木嶋たち。雑踏。
 水崎 「よっし!僕の古巣に案内しますよーーーッ!」
 ほどなく駅前のキャンペーンにひっかかる。
 キャンペーン嬢  「あのー、t yu−ka−の新型携帯、いかがですか!♪ただいま試作機の試用キャンペーンやってます!この大きさでカメラは何と300万画素!当然PCカメラの代わりにもなりまーす!いまならパケット代1ケ月無料キャンペーンの真っ最中!ねぇ!あの・・・ちゅーかあの・・・」
 ノーサンキューで通り過ぎる木嶋。
 水崎 「ごめんねー!」
 キャンペーン嬢 「んもうっ!」


 水崎についていって、木嶋がたどり着いたのは高架の下のかなり大きなパーツ屋だった。
 「よろづムセン」
 大きいと言っても間口は狭く、言わばうなぎの寝床のような店である。
 通路は極端に狭く、壁や棚、いたるところに電子部品だのパソコン部品だの、各種ボードだの
 監視ビデオカメラ・・・果ては盗聴器、盗撮用CCDカメラだの、スタンガンまでもが積もり積もったように、置いてある。
 独特の臭いのする店の中ほどに初老の店主がいた。
 水崎 「ちわーーーーつ!!」
 店主 「おやぁ!さぐる君かぁ。何買いにきた?」
 水崎 「いやー・・・仕事場がボヤに合っちゃって・・・こないだ買った部品と同じの、まだ残ってる?」

 水崎がパーツを物色してゆく。
 木嶋の手元のカゴにパーツがほいほい渡される。段々と荷物もちにされて行く木嶋。
 ふっと脇を見ると、CCDカメラ。最近はこんなに小さいんだと思う木嶋。

 水崎 「おっ!スゲー!!新型の磁気リーダーじゃん!!これってさー、スイカとかIC定期読めるの?」
 店主 「あんんた、それ「研究用」だよ?ヤバイ事に使うんじゃないよ?」
 水崎 「いーじゃん。趣味なんだからさぁ」
 店主 「カードに燃えてた「さぐる君」を知ってる人間に危ぶむなってのが無理だよ・・・」
 水崎 「『クン』はやめろよー・・・・・あ、スゲーーーー!!新型カードキー用のデータ刷り込み機じゃん!!部屋のセキュリティー’age’確実!!」
 眺めながら一人ごちる水崎。
 水崎 「これでモンスターも防げるかなぁ・・・」
 木嶋、あっけにとられる。立っている近くのレジ横のデスクに置かれていた、分解されたパーツをとりかける。
 水崎 「アツ!!ダメそれ!!スタンガンだぞ!!バリッとくるよ!?」
 木嶋、慌てて手を引っ込める。

 店主 「はい、しめて25万4300円。領収書切っとくよ?」
 木嶋 「(水崎に)・・・パーツばっかりでいいわけ?」
 水崎 「解ってないなー・・・秋葉はパーツにはじまりパーツに終わるんですよ?」


 多分水崎の方が木嶋より2年は下だが、2年違えば完全に世代体験は別世界だ。
 特に木嶋は年上の連中と付き合う事が過去多かったからかもしれないが、
 フェンシング部でとりあえず副将だった木嶋は微妙に体育会系的な所にも足を踏み入れている。 
 年功序列を重視する考えは木嶋には無い。だが、水崎のように全く年の差を無視する考え方も木嶋にはない。
 水崎の第一印象は、木嶋にとって奇妙な存在だった。


 秋葉原あちこちを歩き回る木嶋と水崎。
 万世橋警察署の前、水崎が入り口前の警官と敬礼を交わす。
 中央通り、DVDデッキの箱をかかえた外人の観光客たちとすれ違う二人。
 ゲーム専門店でゲームをする若者たち。
 歩く人々も若い。携帯で会話する若者たち。カメラで仲間同士、撮影をしている。
 かつてはあった筈の店が撤退していて、ガランドウになって穴の開いた店舗を見て途方にくれる水崎。
 懐かしげな玩具を売っている店。懐かしーなーという感じで眺める木嶋。
 パーツ屋、組み立て屋、かわいらしい女の子の絵が壁面に書かれた商業ビル。
 立ちんぼの木嶋の手の荷物が次々と増えていく。
 だんだん完全に荷物持ちと化していく木嶋。


 大通りから路地を少し入って行く2人。
 水崎「ちょーっと来た事のない店なんですけど・・・カードリーダー用に必要なチップが出来ちゃって・・・あ、ここここ。」
 立ち止まる水崎。ビル2Fの看板を見上げる荷物持ち木嶋。
 木嶋「あれ、ここって・・・」

 「電子頭脳専門ショップ ソリッドカスタム」




 
アイキャッチ




 水崎 「意外だなぁ・・・世間って狭いや・・・。」

 そこは、スカッドライナーの制御基盤を敷山が調達していた店だった。
 綾瀬は敷山の知人であり、この店のオーナー。木嶋の知人でもある。
 誠実&明朗がモットーのイケメン茶髪の30代である。
 誠実に客に合わせて話をする人物、でもあり、また
 一見クールだが、根は熱い。間違いなく好人物と言える。


 綾瀬 「敷山君から連絡あったよん。木嶋君が戻って来たってね」
 木嶋 「戻ってきたというか・・・成り行きなんですけど;」
 綾瀬 「何、東京には来たくないとでも?」
 木嶋 「そ・・・そういう事ではないです。」
 水崎 「木嶋さんここ知ってたんですかー?エンスーかど・ど・どハードユーザー向きですよ、ココ」
 木嶋 「電子チップの事なんて全然知らないよ」
 水崎 「ていうか、自分もここはじめてなんですけど・・・」
 綾瀬 「会員制だかんねー。敷山氏の紹介だし・・・入会させたげよっか?」
 水崎 「よ・よ・よ・よろしくお願いします」
 目をこれもんにキラキラさせている水崎。店内には何千もの電子チップが陳列されている。
 水崎 「なんか、ワクワクすんなーぁ!博物館みたいだ!!」
 ソリッドカスタムは電子チップの専門店である。一般販売も行っているのだが店内在庫の4割ほどは  一般客の扱える代物ではなく当然高額の「超新型」や、周辺機器すら存在しない「超旧型のチップ群」である。
 綾瀬 「今の都知事が、このアキバを最新型試作電化製品も試用できる町にしつつあるけど、発想、面白いよねー・・・・でも、ここら辺の海外新型や試作品なんて、使い道も普通はないし、見る奴が見ても、ほっとんど判らないだろうねー」
 綾瀬は苦笑する。
 結局、水崎の言う通り、ここは時を越えた「博物館」なのかもしれないが・・・
 ショーケースを眺める水崎。既に仕事そっちのけである。

 水崎 「エキソタムの円形チップって・・・これ・・・」
 綾瀬 「んー、70年代ごろにLSI開発競争の中で、チップを中心に据えた円形基盤開発の運動ってのがおこってね。面白いムーブメントだったんだけど、円形のLSIに円形の配線なんて、作る側もどっちが上でどっちが下だかわからなくなるし、諦めたんだろうねー」
 直上の箱型立方形のCPUに目をやる水崎。チップ箱四方の上中下段にLSIの端子がある。
 水崎 「これは?」
 綾瀬 「これは、インテグラル・ヒューロンの軍事用3Dチップ」
 水崎 「か、完成してるんすかー!!!」
 目をひん剥く水崎。
 綾瀬 「試作版、というよりは失敗作だよね。米軍兵士の頭脳と直接コマンド入出力できるようにする為に開発された戦争用のチップなんだけど、何分デリケートだから、兵士の感情が正常な時はいいけど、興奮してきちゃうとチップが読み取りエラーを出しまくって、端子ごと被験者の脳を焼いちゃった、って奴?3人犠牲者が出たんだって・・・でもまぁ、ここに、あるんだけどねー」
 照れたのか笑う綾瀬。どしぇーーっとなる水崎。
 水崎 「買えませんか?」
 買うなよ、と思う木嶋。
 綾瀬 「1カ月前までは2コあったんだけど、もう売れちゃってこれは保存用。ゴメンね?」
 この店の電子チップにより、スカッドライナーも、タンクホーネットの外装兵器類(後期その殆どがNATO軍用兵器の流用となった。初期兵装はほぼ自衛隊用兵器の流用、ホーネットが「タンク」と呼ばれる所以でもある)も、維持されていたのだが・・・
 どうやら、綾瀬と軍関係のCPU産業のつきあいは、まだ健在らしい。
 完全にマニア少年の地を見せてしまっている水崎に、結局兄貴的に色々教えている綾瀬を見て
 綾瀬氏の面倒見の良さは全然変わってないなーと思い、木嶋は一人笑いをした。

 水崎 「あー、珍しいチップを一杯見ておなか一杯!・・・にはなったけど、胃袋は腹減ったーー!!昼飯行きません?木嶋さん」
 木嶋 「そうだね。」
 綾瀬 「あ、おれは店開ける前に食べてきちゃったから。荷物は見てるし、安心していってきたら?」
 水崎 「よーし・・・どこにします?」


 軽食&喫茶「フリ×フリ」。
 窓際にすわる白衣の木嶋と水崎。清潔で明るい店内。
 店は2Fらしい。窓外には電気街のビル群と路上を歩く人々が見える。
 木嶋は店の中を眺めた。
 はっきり言って木嶋が白衣着てても全く目立たない位、どの服もカラフル。
 露出度の高そうな、フリルのメイド服だった。
 しかもミニスカートだが・・・清潔感はある。

 水崎 「意外だったなー、木嶋さんてこーいう店が趣味だったんですか?入った事は?」
 木嶋 「全然。単に甘いものが好きなだけだよ。」
 水崎が声をひそめつつ身を乗り出す。
 水崎 「で、何か超感覚ってのにひっかかってキマスか?モンスター。」
 木嶋 「・・・・・全然。」

 ウェイトレス 「いらっしゃいませー!!」
 ウェイトレスがテーブルにやってきて水を置く。
 ウェイトレス 「ご注文は?」
 木嶋 「ハチミツ入りのワッフルパフェもらえる?」
 水崎 「あーオレ、ハンバーグサンド」
 ウェイトレス 「ハーイ♪カシコマリました−−ッ♪」
 キャピキャピとしたウェイトレスがいそいそと内カウンターに向かっていく。

 結構お客の入りも多く盛況らしい。
 何故かところどころの席から「萌えぢゃーん」という声が聞こえる。
 木嶋 「・・・・?・・・・・??」
 水崎がテーブルに左ひじを付きやれやれというアクションをする。
 水崎 「ヤダヤダあいつら・・・’萌えぢゃーん’だってさ。死っ語じゃん死語・・・」
 木嶋 「萌えちゃん・・・」
 萌えを知らない木嶋にご教授したくなる水崎。
 水崎 「ときめく心の事ですよ!」
 木嶋 「ときめきが萌え子ちゃん・・・」
 水崎は木嶋をいじっているのかいじられているのかわからなくなり、木嶋の左胸を指差しキレる。
 水崎 「木嶋さんには心ってものがあるのくぁー(笑)」
 木嶋 「そっちはからだよ(笑)」

 ・・・ともかく、何か知らないが、客の中に下卑た雰囲気があるのは
 木嶋の感性に訴えかける所だった。
 例えていうなら、そう、狭山丘陵に不釣合いな、あの処理施設の匂いに雰囲気が似ていた。


 ようやく食事がやってきた。
 ハチミツワッフルパフェを食べる木嶋。
 ハンバーグサンドをぱくつく水崎。

 水崎 「あ、いーなー、あれ・・・」
 目線を上に上げる木嶋。
 店員 「りかちゃーん、5番テーブルー」
 ウェイトレス 「ハーイ♪」
 水崎の指差す先に一人のウェイトレスがいた。
 
 純粋さと素朴さを併せ持ったような子だった。
 動作がとても生き生きしていた。
 清楚ではあるが、とっつきづらそうでもない。化粧もナチュラルメイクであり、
 背は高くも低くもなく、けれど、
 おんなじウェイトレス服なのに、どこか目立つ。

 木嶋 「ああいう子、どーいえばいーんだろ。青少女?きれいな花みたいだとでも言えばいいのか・・・真っ白な花かな。」
 水崎 「?!!」
 木嶋 「白いバラ・・・ユリ・・・チューリップ?」
 水崎、プーッと噴出す。下あごがひくついている。
 水崎 「木嶋さん木嶋さん・・・大・大時代的な表現しますね!・・・オモシロイ!!」
 笑い転げられてかなり恥ずかしくなり、パフェをぱくつく木嶋。
 木嶋はボキャブラリーが実はあまり豊富ではない。
 水崎 「でもあの子、どっかで見たような気がするナー、どこでだろ?」
 しげしげと眺める水崎。その視線にテーブルを拭いていたウエイトレスが気づく。
 振り向くウェイトレス。が、何故か、木嶋たちを見たその顔がこわばる。
 狼狽したように、絶句して駆け出す少女。トレイの上で空のグラスを倒してしまう。
 少女はそのまま奥のカウンターにトレイを置き、ウェイターに伝票を渡すと、
 手で顔を隠すように、休憩に入っていった。
 木嶋・水崎「???」
 その時、背後でピーという音。振り向く木嶋。
 水崎「・・・?」
 しかし、何の気配もない。水崎の方に振り返る木嶋。
 その背後のテーブルの3人に悪意。
 だが、そのテーブルだけでなく、他の席からも色々な声が聞こえる。

 「画質、どぅ?」
 「いくらで売れるかな・・・」
 「うちの姫にいいと思わねー?・・・」

 パフェも店内もいい雰囲気だったが、木嶋は少し不快になってきていた。


 秋葉原、昭和通り遊歩道。
 食事を終え、店を出て路上を歩いている、木嶋、水崎。
 水崎 「あーあ、嫌われちゃったかナー、面白そうな店だったのに」
 木嶋 「二人してあんまりしげしげ見たからかな・・・」
 水崎 「そういう視線には慣れてる筈なんですけどね、ここらの店の娘(こ)は・・・」
 木嶋 「そうなわけ?」
 水崎 「そういう視線の客向けの専門喫茶もあるし。コスプレとか?」
 先刻の少女の表情を思い出す木嶋。
 医者として判断するなら、少女の表情からは眼振と紅潮が見て取れ
 背中から手のひらまで、発汗までが手に取るように判った。
 歩いて行く時の虚脱した四肢。自律神経失調の典型的な症状・・・
 しかしそれを自分と水崎の視線のみが与えたとは思えない。
 気になる木嶋。罪悪感を持つ理由もないが、気になる。


 水崎 「あ、ヲタの群れだ・・・」
 向かい側の道を見ると、ある書店から長蛇の列が伸びていて
 いかにもオタク、といった風采の上がらない連中が、すらーっと並んでいる。
 その先端にはあった看板には
 「ネットアイドルNo.1武田洋美水着写真集出版記念サイン会ツアー開催中!!整理券配布は終了いたしました」
 むせ返る周囲の空間。
 彼らのメガネの奥の瞳、尋常ではない。

 水崎 「まいるよナー、コレ。ノリが狂っちゃうよ」
 嘆息する水崎。

   水崎 「中学にあがった時から、電子部品とか買い集めて、いつのまにかはまっちゃって、そんでカードハッキングに手を出したり・・・色々しましたよ。秋葉に来た以上せざるを得なかったんですよ。秋葉はフリークの街だから。でも、ここってこんなに甘ったれた連中ばかりが集まる場所だったかなぁ・・・もっと一匹狼的っていうか、群れない連中が集まってた街なんですよ、ここ。今、群れてる連中ばっかじゃないすか。僕もアウトローだったわけじゃないですけど。」
 さすが、要が右腕にするだけの事はある、と木嶋は思った。言う時は言う。この男。
 木嶋も要にとっての右腕・・・かもしれないが、結局、どこにいても疎外感を感じる故、木嶋は自然と自分を除外して、そう思う。
 その時歩く木嶋の携帯が鳴った。着信を受ける木嶋。
 声は聞き覚えのある人物だった。
 木嶋 「く、倉田先輩・・・・」

 どこかの法人経営の病院の中、白衣の女医らしき女が病院の廊下から公衆電話をかけている。
 歩いてゆく人々、軽い雑踏音。
 倉田 「ひっさしぶりねーー!!城空大学の卒業コンパにお邪魔して以来だから3年ぶりだっけ?こっちも所属を宗旨変えしたもんだから結構忙しくて連絡も取れずでゴメン・・・・あっ!切れちゃう!」
 ガッチャンガチャンと硬貨投入する音。
 プーーッという音声
 木嶋 「公衆電話から?!」
 倉田 「うんうん!さっき診療終わって、思い立ったのが2Fだったんで部屋からも携帯からもかけられなかった・・・」
 木嶋 「・・・・・・ほんっとうに忙しそうですね;・・・というか病院から携帯は(笑)」
 倉田 「んー、まぁね。世に病の種はつきまじ、って感じかなー;・・・というか最近は病院内で使用できる勤務者用のピッチーもあるのよ。ってか、関係ないじゃん、と・・・・・・いや、何で電話かけたかっつーと、要のおっさんに連絡もらったからなんだけど。」
 木嶋 「う」
 眼鏡を指であげるしぐさをする倉田。はぁと息をつく。一拍。
 倉田 「木嶋くん、貴方、持病が悪化するような事、やってないよね?」
 そんなとこかとは思っていても、望んでもいないのに手回しが早すぎる。
 心配かけるといけないと思った木嶋は、嘘をつく。
 木嶋 「いえ、全然。やってるわけないじゃないですかー(笑)。大体戦ってもいないんですから・・・」
 倉田 「そぉ?とにかく、東京に戻ってきてるんだったら、一度バイタル取りたいから青山まで来てもらえる?」
 木嶋 「えぇ、まぁ近い内に。・・・・・実は敷山と昨日会ってきたんですけど。タイミングいいですね。」
 倉田 「あははははーッ!!じゃねー!!!」
 笑う倉田、逃げるように電話を切る。

 携帯を切る木嶋。水崎はつまらなそうにしていた。
 水崎 「なーんだぁ、木嶋さん、彼女いるんじゃなイスカー!」
 木嶋 「・・・・・彼女じゃないんだけどね」
 水崎 「じゃ、自分は仕事がありますんで!」
 私服の水崎、敬礼して笑顔で木嶋から離れる。

  ある漫画喫茶店内。読むコミックを物色する人々
  男たちがパーティションで区切られたパソコンを前にニタニタと笑っている。
  男A「へへへへへ、どうよ、これ」
  男B「スーゲスゲ。収穫でスナ!」
  男C「抜けまスナ!」
  男A「晒しましょう晒せば、「神」」
  男B「ウpっ!と」
  マウスがクリックされる。

 彼が離れていって視界から消えたその時
 木嶋の耳にKi---------------という音が聞こえてくる。
 木嶋 「共振音!?」

 女性 「キャアアアアアアアアア!!」
 上に首都高の走る大通りをはさんだ向かいの雑居ビルから、
 路上に悲鳴が響き渡った。
 雑居ビルから次々に出てくる、逃げ惑う人、人、人。
 人々はパニックに陥っているようだ。
 木嶋は信号を待ちきれないが、取りあえず信号が変わるのを待ち、高速の下の横断歩道を渡って行く。

 が、木嶋がその雑居ビルにたどり着く直前の、別の雑居ビルの入り口に見たのは
 周囲がパニック状態になっているのにも全く気づかない、
 さっき、軽食喫茶で木嶋たちの視線から逃れるように立ち去ったウェイトレスの少女だった。
 彼女の手には「履歴書在中」と赤字で書かれた白封筒が握られている。
 彼女の走りすぎようとする一瞬、その封筒を見た木嶋・・・足を止め、事件の起こった隣の、彼女が入ろうとしていたビルを見上げる。

 木嶋は彼女が入ろうとするビルのパテント看板を見てドキッとする。
 「性感ヘ*ス」「コスプレヘ*ス」「おし*ぶり」「*リヘル派遣」だの
 いかがわしい文句ばかりが並んでいたからだ。
 木嶋の視線に気づく少女。顔面が蒼白となる。
 少女 「あっ・・・・」

 背後で遠く響く「か、怪物が!・・・怪物がーーー!!!」等の声。
 少女の姿が一瞬あの異国の少女とダブる。

 木嶋はとっさに、彼女の手から履歴書の白い封筒を奪い取った。
 何も考えていない。条件反射と言ってもいい。
 少女 「あ!!!」
 木嶋 「・・・」
 少女 「・・・返して!!・・・・返してよッ!!!」
 木嶋の手から白い封筒を奪い返そうとする少女
 木嶋 「・・・君は、ここで待ってるんだ。」
 パニック状態を無理やり気迫で押し黙らせ、木嶋は彼女の履歴書を白衣に突っ込み、事件の起こったビル内に飛び込んで行く。


 階段を降りてくる人並みをかき分けながら、ビルの4Fにたどり着く木嶋。
 インターネットのできる、中規模のまんが喫茶だった。
 パニックに陥っている女性店員。客はもう全て階段から降りていってしまって、彼女ともう一人の男性従業員しかいない。
 女性店員「あそこで話していた人達が・・・注文の飲み物運びにいったら、目の前で何かに食べられ・・・!!」
 店内の隅の、パーティションで区切られたパソコンデスク上とフローリングに
 先の何人かの男の、薄汚い指、手首、すね毛のついた足首が散乱している。
 パソコンの外部ユニットからは携帯が垂れ下がって、何かわいせつな画像がモニターには映っているようだったが
 それを気にするひまは木嶋には無い。
 がくがく震えの止まらない女性店員を抱える男性店員。
 木嶋 「とにかく逃げて!!あとここに連絡を!!」
 木嶋はレジ横の紙に要警視正の携帯番号を書き殴り、男性店員に渡す。
 店内を出て行く店員2人。木嶋、カードデッキをポケットから取り出す。
 木嶋 「変身!!」
 変身ベルトビーレイザーが発生、木嶋、ライダーVi:に変身する。
 ライダーVi: 「タンクホーネット!!」
 デッキをかざすライダー。ライダー、銀色の姿に変身し、店入口の全身鏡からミラーワールドに突入する。


 タンクホーネット、共振波動を感知。丘陵地帯の巣から土煙をあげて発進する。
 赤く発光する双眼。


 ミラーワールドの銀色のVi:。変身後降り立ったまんが喫茶の室内は、
 パーティションデスクやモニターが滅茶苦茶に引き倒されていて、既に大きく窓ガラスが割られ
 ブラインドもズタズタにされていて、もぬけの空だった。
 割られた窓から外に飛び出し、反転した昭和通り路上に着地するVI:。
 首都高とJRの高架が走っているその真下、各ビルの窓ガラスには
 まるでライダーを包囲するように、慌しくパニック状態になった現実世界の人々の影が映っている。
 携帯カメラで撮影までしているやじ馬までいるようだ。
 周囲に気を配ろうとしたその時、共振音とモンスターの声
 モンスター「ギ・ギギ・・・・ギギギギ・・・・・」
 上を向くVi:。一瞬、モンスターの昆虫の様な足がJR高架の縁にひらめき消えた。
 VI:、羽を開き、ジャンプ。高架上15M程の高さを滞空する
 ライダー 「!!」

 昭和通り頭上の高速道路上にはいたる所にくもの巣が張っていた・・・
 高架だけではない。ビルとビルの間にも、電線にも、駅のプラットホームの空間にも
 強度のありそうな粘性の糸がいたる所に貼られている。

 ミラーワールドの秋葉原は既に巨大な蜘蛛の巣と化していた。   (俯瞰)

 モンスター「ギ・・・ギギギ・・・ギギ・・・・・」
 背後のビル上の声に空中で振り向いたライダーに向けて、何本ものミサイル状の物体が射出される。  VI:にミサイル状のものを撃ったのは、あの列の並んでいた書店ビルの上にいた、巨大な蜘蛛型のモンスターだったが
 一瞬視界をよぎっただけで・・・ライダーは高架の線路上に叩き落され墜落する。
 ライダー 「うa!!」
 重装甲のVI:が大きな音を立てて総武線の線路に激突し、煙と粉塵が舞い散る。
 立ち上がるVI:。すると反転した秋葉原駅の屋根つきプラットホームの遥か遠く、モンスターが逃げて行き
 高架線路から下に、飛び降りるのが見えた。
 ライダー 「!!」

 羽を開き、追いかけるライダー、ジャンプ。
 共振音を上げながら駅のホームに貼られたくもの巣を交わしながら飛行、線路とホーム上を突っ切る。
 無人の駅の監視カメラがその姿を追う。
 駅を突っ切って逆側のホームの端を通り過ぎ、線路上に着地するライダー。
 ライダー 「トゥッ!」
 向かって「左」に飛び降りるライダー、通りに着地、走る。
 ミラーワールド、秋葉原電気街の大通りに出るライダー。


 先刻水崎と歩いた所が反転し、大きな空間のように広がっていた。
 人ひとりおらず、そこも控えめではあるが、見上げるとあちこちに蜘蛛の巣。
 秋葉原の空は曇りはじめてきていた。
 その瞬間、頭上からミサイル弾。ライダー前方に前転するように回避、背後で爆発。
 顔を上げたライダー、中央通りに立つ。すると、
 モンスター 「グルグrグrグrグル・・・・・・・・・」「ギギ・・・ギ・・・ギギギギ・・・・」
 中央通りの至る所から、路地から、頭上の高架から、ビルの壁面づたいに、
 背丈3M以上の、人型の上半身を持つ、蜘蛛の姿をしたモンスターの集団が、姿をあらわしてきていた。

 中央通りを向かってくるドグマスパイダー群。
 ライダー、ベルトからソードベントのカードを引き抜き、ビートバイザーに争点する。が・・・・
 ビートバイザー 「モンスター認識不能。Bi!Bi!」
 ライダー 「!!」
 何匹かの蜘蛛が前足をライダーの方に向けたかと思うと、突如爆発。
 それらの足がライダーの方に向けて飛んでくる。それがさっきのミサイル群だった。
 ライダー 「!!」
 ジャンプして横の大通りに回避するライダー。羽音を響かせながら、さっきの警察署の前を飛行し、突っ切って行く。
 追うドグマスパイダー。「シャトル*号館」の建物のガラスを砕きつつ「右」折、
 下半身中央部から、粘液質の蜘蛛の糸をライダーに向けて何度も吐きかけ続ける。
 飛びつづけるライダー、回避。それらの蜘蛛の糸が通りのビル群の壁にかかってゆく。
 ビルにかかる糸がショートし、ビルの窓ガラスが砕ける。蜘蛛糸は通電性を持っているらしい。
 ライダー「電撃?!」
 地上とビル壁を移動して追ってくるの2体のスパイダーがミサイル発射。ライダー、スライド飛行で回避。
 水平弾がビルに着弾、垂直弾が路面に着弾。砕け散るアスファルト。
 粉塵でスパイダーの視界が完全に塞がれる。
 ドグマスパイダー群「!!!!!」

  ライダーは気配を消して駅前雑居ビル間の、雑然と電気機器や電飾ケーブルが置かれた細いアーケード路地の中に逃げ込む。
  周囲の棚にワイドテレビや携帯、ビデオカメラが並んでいる。
  反転しているとは言え、さっき水崎と歩いたばかりである分、木嶋も地の利は判っている。
  アーケード内路地の電化店前に立ったVi:は、足を止め、完全に気配を消す。
  Vi:の背後の天井で、静かに店内監視カメラが動いている。


  ・・・・とりあえず相手が蜘蛛型モンスター(昆虫ではなく)である事はわかった。ホーネットがまだ来れないのはおそらく彼の姿を映せるだけの適当な鏡が近くに無いか、そこまでの国道で渋滞に巻き込まれた為だろう。
  ライダーは、この世界ではホーネット無しでは剣一つ振るえないのか、といらだちもしたが、愚痴を言っても始まらない。
  戦闘制限時間も限られている。敵の正体はわかったのだから、一度戻って対策を考える他ない。
  負け犬のようで悔しかったが、生きなければ、人を助けつづける事はできないのだ。
  入り口の鏡がある元の喫茶からはかなり遠ざかってしまった。
  制限時間が近づいている。その時、


 Vi:のいる雑居ビルアーケード頭上にミサイルが撃ち込まれた。
 階上で爆発音、振動で棚から落ち出す販売物。天井からこぼれてくる塵
 ライダー 「!!」
 ライダー、出口に向けてジャンプ。その勢いで叩き落とされるテレビやビデオカメラ。倒れる携帯の展示棚。
 アーケード路地から脱出するライダー。
 直後その路地に逆側からミサイルが撃ち込まれ、爆発。
 吹き飛ぶ電化製品の販売物群。ビルにからみついていた蜘蛛の金属性粘糸が爆炎で散り散りに燃えていく。
 路上に手をついているVi:は立ち上がろうとする。が、左右のビル上の壁づたいに曲がって来たモンスターが
 ビルの窓ガラスを蹴立てつつ、斜め両上空からはさみ撃ちを仕掛けてきていた。
 ライダー 「!!!」
 両壁面のモンスター、ライダーにミサイルを射出。ライダー、前方の駅の真上に向けてジャンプ、回避。
 駅の建物を飛び越える。
 ズドーーーーーーンnn・・・ドドドドn・・・
 砲撃、爆撃音のやまないミラーワールド。 
 いつしかミラーワールドの秋葉原にも、雨が降り出す。

 爆発の粉塵に紛れて、電子機器が露店のように売られる路地を走り、飛び、迷走し、さまようライダー。
 ライダーを追い、次々と撃ち込まれるミサイル。背後で次々に爆発。
 割れ行く窓ガラスに映っている、現実世界の人々。
 ライダー「何故だ!何故居場所が読まれる!!」



 狭山丘陵近くの国道沿いの静かなコンビニエンスストア。
 コンビニの雑誌を立ち読みしている男が一人前を向く、もう一人の客もつられ前を向く。
 ガラスの外、車道から大型の昆虫型武装バイクが彼らの方に向けて急ハンドルを切り
 コンビニの店舗ガラスに向けて突進してくる。
 客たち「う、うああああああ!!!」
 タンクホーネット、コンビニのガラスに突進、姿を消す。

 ソリッドカスタム店内。作業を続ける水崎。綾瀬は仮眠している。
 作業机でハンダゴテを手にし基盤をいじっていた水崎。ハッと顔をあげる。
 水崎「思い出した・・・あの子・・・」


 現実世界の秋葉原にもにわか雨が降りはじめていた。
 放心状態で交差点の歩道付近に座りつづける先の青少女。
 彼女が路肩に座っている傍ら、少し離れたさっきの雑居ビル前にやじ馬と警官たちが集まってきているが
 あの少女はぼぉーっと空を見上げ続けているだけで、全く騒ぎには興味を持っていない。
 彼女の白い服、肩が、髪が濡れていく。

 降りつづける冬の冷たい雨。






第4話−完


モンスター: ドグマスパイダー 登場。




予告

   街にあふれるカメラつき携帯。

   警視庁で電話をかけている要。

   要   「木嶋。とばしサーバー、って知ってるか?」

   出現するネクロスパイダー。

   ネクロスパイダー「グゲエエァーーーー!!!!!」 

   独白する水崎。

   水崎 「対人関係苦手で、他人の愚痴を聞くのも嫌で、逃げたくなって、結局は分室長にひきこもったんですよ、俺・・・」 

   ライダーの身体にからみついた蜘蛛の糸が燃えさかる。

   ビートバイザー 「PANTER VENT!」

   木嶋に語り掛ける倉田女医。

   倉田 「あなたの症状は無理にキチンX系の研究を続けた事と、ライダーとして戦闘を続けてきたことによるものだから・・・要は、戦闘行為をしなければ、再発することはないの。」

   戦闘を続けるライダーVi:。


   りか 「ずっと自分でネットの事とかCGIとか勉強してきたんだよ?それなのに、何で自分があの街離れなくちゃならないの・・・?」






第4話、やっと終わりましたーーー!!
モンスターデザインがまだなんですが・・・いいや、upしちゃえ!
というか、下書きみつかんないんだよ >ドグマスパイダー
3話upが1月半ばですから、丸4ヶ月強!時間かかり過ぎです。反省反省。
ストーリー自体はこの1月に考えてたまんまなのですが。実際に書いて形にするとなると本当に大変で、
本編だけで141kb(草稿にしているメールフォーム上で)ってのは、1・2・3話までから見ても新記録です。
何故メールフォームかというと、up状態の背景と文字の色で書けるからです。

で、4話内に登場したショップ内のチップについてですが、これはフィクションです。
メーカー等もフィクション。パラレル的なSF話ですから。
秋葉原には一応ロケハンに行ったので、そういう点はリアリティあるかもと思ってますが・・・
建物や店舗も含め、全部フィクションと受け取って下さい。ロケ地と思ってもらえれば。
描写的にリアリティが出てれば正解、と。2004・5年の話だし大体。(- -);

123話に続いて風俗ネタかよ!と思われる向きもあるでしょうが、Vi:は結構そういう話で、
でも重複テーマにはならないように気は使ってるつもりなんで、お許し下さい。別に風俗ネタというわけで
も無いんだよね。>4話
5話では木嶋の持病の正体が明らかになりますが、実際にはあまりテーマに関係ないかもしれません。
戦闘シーンは色々面白い事をやろうと思ってるので乞ご期待・・・です。